コラム

  • 公開日:2017.05.19
  • 更新日:2017/05/19

会社を創業する際に注意すべきポイント【その1】 ~会社の資本金の決め方とポイントについて(資本金の額について)~

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今回は、新規に会社を設立する際に注意すべきポイントを解説したいと思います。会社を設立する際に、手続的な側面で最初に決めておかなければならない点は、基本的には定款を作成する場合に必要な情報、会社の商業登記をするために必要な情報、となり一般的には、最低限以下の条項を最初に決めておく必要があります。

①資本金の額(発行済株式総数と発行可能株式総数など)と1株あたりの金額を決める。
②取締役会を設置するかどうか
③監査役を設置するかどうか
④だれが発起人(株主)になって、役員は誰がやるのか、代表者は誰がやるかを決める。
⑤本店所在地の場所
⑥会社の目的(どんな事業を行うのか、またこれにより許認可が必要かも関係します)
⑦会社の名称(商号)を決める
⑧決算の事業年度を決める
⑨いつ会社を設立するか(設立日)を決める
⑩公告方法を決める

上記のほか、もう少しカスタムしたい場合には専門家にご相談ください。

さて、今回は上記の条項のうち、「①資本金の額」を決める場合のポイントについてお話したいと思います。

【1】資本金は会社信用力の基礎

資本金は会社の登記簿謄本に記載され、誰でも閲覧することができます。したがって取引先の登記簿を法務局で調べれば、誰が役員で資本金がいくらで、という情報がすぐ入手できます。
BtoCで事業展開するならさほどではありませんが、BtoBで取引を予定している場合には注意が必要です。
新商品を開発しこれから販売に向けて準備をしている段階で新しい会社を設立した場合、新商品を大企業が購入したい、とか販売代理店となりたい、という運びになったとしても資本金が少ないと取引先の与信がとおらないため、取引を断念せざるを得なくなる場合があります。与信が通らない場合、一旦信用力のある商社を帳合いに入れて取引をする場合がありますが、これも製造段階で金型などをつくり量産体制に入っていれば製造原価を抑えることができるため、メリットはありますが、卸業者へのマージンが負担となれば小売業者の営業マージンが減り、営業マンのモチベーションも下がったり、営業経費を捻出する余裕がなくなるため、販路開拓費に充当できる資金が減るため、却って売り上げが減少することに繋がりかねない、など、信用力から波及する効果にさまざまなところで影響してきます。

資本金は平成18年の会社法の改正により完全に資本金が1円から設立できるようになりました。しかし資本金が1円ということは、会社の創業当初に作成する「開始貸借対照表」では「資本の部の合計1円」「負債・純資産の部の合計1円」という計上となり、取引先からすれば、本当にやる気があるのか?と疑いの目をもたれてしまうかもしれません。

公的金融機関から融資を受ける場合も同様です。融資制度にもよりますが通常、融資希望額の1/3は少なくとも自己資本を保有しているかどうかは審査の際のチェックポイントとなります。今後は、自己資本額にとらわれず、事業の将来性などを考慮して融資額を決定するという動きになっていますが、やはり資本金1円では融資はまず難しいでしょう。

会社の売り上げが立つのに創業から3か月程度かかるという事業計画で、役員または準役員3名体制で、1人は総合的に舵取りをする代表者、もう1人は営業の得意な人、もう1人は資金を引っ張ってくる力のある人、で構成して会社を運営した場合、1人あたり1月30万×3ヶ月で90万が3名分(合計270万円)とし、交通費や接待費は未払金などとして後ほど売上が上がった時に精算する、という感じにした場合、やはり最初の段階では運転資金として(設備投資費や開発費とは別に)3か月から6か月分の支払いができる程度の額は用意してそれを資本金としておくとよいように思います。

【2】資本金の額による制度の違い

(1)税制

・資本金1000万円までの会社ですと消費税や法人住民税が1000万円以上の会社と比べ優遇されます。たとえば最初から1000万円にすると一期目から消費税の課税対象事業者となるため、その辺については戦略的意図がないならば最初の段階は資本金を1000万円未満とするとよいかもしれません。
・資本金3000万円以下でも設備投資の一部が直接控除の対象となる場合がありますが、3000万を超えると法人税が高くなります。
・資本金1億円以下の会社と1億円超の会社とでは大きく異なり、1億円以下の場合ですと「中小企業者」として扱われ軽減税率の適用や一定の経費の損金算入、欠損金などの取り扱いや特別償却や特別控除など、中小企業ならではのメリットがあります。
逆に資本金1億円を超える会社では、中小企業として受けられる制度上のメリットがない分社会的信用力が格段に上がりますので、信用力強化による会社の利益の度合いと、制度上のメリットとの損益バランスを総合的に考えてこの辺のボーダーラインをどうするか決めるとよいと思います。、

(2)会社設立登記の際の登録免許税

・株式会社・合同会社の場合、会社の設立登記をする場合に必要な登録免許税は資本金の額の1000分の7の印紙代がかかります。

(3)許認可

特定の事業を行う場合には許認可を取得しなければならない業種があります。この場合許認可の要件として一定の財産的基礎が条件となる場合があるので注意が必要です。
資本金は一度銀行に入れて払込証明をつければ資本金として登記簿に掲載されますが、その後すぐにお金を抜き取ってしまい「見せ金」的に会社を立ち上げることができてしまいます。
しかし、許認可を取得する場合、見せ金だけで判断すると、事業が破綻したときの担保が確保されていないため取引先に多大な損害を被らしめる可能性があるため、許可認可の際に財産的要件として一定の額を基準資産額として、貸借対照表上の流動資産として現預金や、純資産として一定以上の額を確保しておかなければならないものが多々あります。つまり一定額以上の資金調達力があることが証明される必要があるわけです。
ざっくりですが、たとえば建設業は500万円以上、労働者派遣業は2000万円以上、旅行業は3種から1種まであり、それぞれ3000万、700万、300万以上、宅建業は営業保証金1000万円、貸金業5000万円以上、など
その他、外国人が日本法人の役員になる場合で「経営管理ビザ」を取得する場合には、当該外国人が500万円以上の投資するなど、

※ なお、これらは必ずしも資本金として登記簿に登記していなくてもかまいませんが、実質的に会社の資産として財務諸表などに表れている必要がある資産です。
したがって、これから設立しようとする業種や構成員などを、資本金に充当できる額と相談しながら計画・スケジューリングしていく必要があります。

【3】資本金は使ってもいいお金?

資本金は一般的に会社を取り巻く利害関係人(ステークスホルダー)の財産的担保力の基礎となるものです。
したがって資本金は原則として会社の経費としてしか使えません。また、決算日(年度末最後の日)に資本金が登記している額より少ない状態(資本割れを起こしている状態)ですと、会社信用力にも影響を及ぼします。
一定の額を資本に組み入れる場合、まず自分最低限の生活費などを確保しておき、それを差し引いた額を資本に組み入れて会社を立ち上げることが望ましいといえます。手持ち資金を全て資本に投入し、あとで生活費を会社から貸付をするという方法よりも、会社の資金が足りなくなった場合には、個人の口座から会社に貸付をして、利益が出た場合にそれを個人に返済せずに会社の資本に組み入れること(デット・エクイティ・スワップ)により、会社の現預金を外部になるべく流出させない方法のほうが、会社やステークスホルダーにとってはメリットがあります。

【4】資本金に関連して

(1)資本金

資本金はこれまでお話したように、株主(設立時は発起人)が会社に払い込んだ会社財産を確保するための基準となる金額のことを「資本金」といいます。これは会社が発行する株式を1株いくらに設定し、最初の段階で何株かを発行します。したがって、資本金は「1株あたりの金額」×「発行した株式の総数」の合計額が「資本金の額」ということになります。
この株を引き受ける人が株主です。株主は株式を引き受けた分だけ会社に対して議決権を行使したり配当金を受けたりすることができる、いわば会社の根本的な運営に口出しをしたり利益を受けたりすることができる会社の所有者といえます。
資本金は会社の決算書の中の「純資産」というところに位置しますが、同じく純資産の部に設置される勘定科目として、「資本準備金」「資本剰余金」があります。

(2)資本準備金

資本準備金というのは、資本金の1/2を超えない額を準備金として積み立てておくことができるものをいいます。もし資本割れを起こしてしまうと会社の信用に大きな影響を及ぼし、売上が減少することもありえますので、会社の業績が悪化した場合、資本準備金を取り崩して資本金に充当し、会社信用力を保持するということが可能となります。
第三者割当増資のため新株を発行する場合なども同様に資本金に充当するか資本準備金に充当するかを先に決めておく必要があります。
また、株主に配当する場合、資本剰余金が少ない場合には資本準備金を取り崩して資本剰余金に充当し、その上で株主に利益配当することが可能となります。

(3)資本剰余金

資本剰余金は利益剰余金と併せて株主への配当原資になります。したがって株主に利益配当をおこなう場合は配当に関する株主総会決議を経て資本準備金を定め、その額を配当原資として株主に利益配当していくことができます。

次回は、資本金に関連して、1株あたりの価額の決定に関連し、発行済株式総数と発行可能株式総数とそれに関連するトピックスをお話したいと思います。

それでは次回をお楽しみに。

行政書士 樋口直人